実践ガイド

チケットからマージまで──AI駆動開発の日常ループと多層ゲート

AI駆動開発の型ができた後、毎日どう回すか。チケット→PRD→テストケース/ステート図更新→実装→テスト→マージのループ、速い順に並べる多層品質ゲート、ブランチ戦略を決めずに進む「v2方式」を解説します。

AI Agent CampAI Agent Camp 編集部··6 分で読了

チケットからマージまで──AI駆動開発の日常ループと多層ゲート

AI駆動開発の導入は、2つのモードに分かれます。

モード内容重さ
立ち上げ(型づくり)パイロット1機能について、コンテキスト基盤から運用まで縦に1本通す重い。人間の時間を前倒しする
定常運用チケット単位で差分を回す軽い。毎日回す

立ち上げについては「既存リポジトリでAI駆動開発を始める順序」で扱いました。本記事は定常運用、つまり型ができた後に毎日どう回すかです。機動性はここで担保します。


日常ループ:チケットからマージまで

チケット
   ↓
PRD(なぜ・何を変えるか)                  ← 👤 承認ゲート①
   ↓
ユースケース/テストケース/ステート管理図 の更新   ← 👤 承認ゲート②
   ↓
実装                                      ← ⚙ Hooks(lint・型・関連テスト)
   ↓
テストの実施 ──(落ちたら実装へ戻す)
   ↓
マージ                                    ← 影響ドキュメントの更新が条件

各ステップの担当と判定基準を整理すると、こうなります。

ステップ成果物審判人の関与
チケットスコープ起票・優先度
PRD目的・要件・非対象人(合意)承認ゲート①
UC/テストケース/ステート図の更新期待挙動の確定有識者レビュー承認ゲート②
実装コード静的解析・型(Hooks で即時)原則なし
テストの実施テスト結果前段で確定したテストケース落ちたら戻す
マージCI(lint/type/test/build)最終判断

このフローの肝は3つです。

1. 実装より前にテストケースが確定している

AIに渡すのは文章の仕様ではなく、通すべきテストです。「審判を先に決めてから書く」という順序を、チケット単位で強制する構造になっています。審判の作り方そのものは「Mockを「審判」にする」で扱っています。

2. ドキュメントは「作る」ものではなく「更新される」もの

チケットごとに影響範囲の差分が入るので、ドキュメント整備が開発と一体化します。 整備を別プロジェクトとして走らせると、必ず実装に追い越されて腐ります。

影響したドキュメントを更新したかをPRのチェック項目にして、マージ条件にするところまでやって初めて機能します。

3. ステート管理図を必ず通す

業務システムの事故は、状態遷移の抜け(この状態でこの操作をしたらどうなるかが未定義)から起きます。ここはエージェントが最も壊しやすい部分でもあります。

図を実装前に更新すると、抜けがコードになる前に見つかります。 逆に、実装後に図を更新する運用にすると、図は実装の写しになるだけで検出装置として機能しません。


重さはチケットの大きさで変える

固定費の高い工程を全チケットに課すと、機動性が死にます。

チケットの性質通す工程
画面や業務フローが変わるフル(PRDから通す)
既存挙動の修正・軽微な追加PRDは省略。テストケースとステート図の更新から
表示崩れ・文言修正実装とテストのみ

判断が分かれる場合は、「この変更は状態遷移に影響するか」で切ると実務的です。影響するならステート図を通し、しないなら省略します。


なぜこれで速くなるのか

各ステップの一次生成をAIが担えるからです。

人間が入るのは承認ゲート2点(要件の合意/期待挙動の合意)と最終レビューだけになります。人の時間がレビューの物量ではなく、上流の合意に配分される。これが「人間の時間を前倒しする」の実務的な意味です。


多層の品質ゲート:速い→遅い、狭い→広い

審判は1つではなく段階防御にします。安いチェックを内側に、高いチェックを外側に。

AIの生成物
   ↓
① Hooks(編集直後・秒単位)      lint・型・関連テスト
   ↓
② LLM as judge(生成完了時・分)  ルーブリック採点・E2E確認
   ↓
③ CI/CD(PR時)                 静的解析+全テスト+build
   ↓
マージ
(どの段でも落ちたら修正ループへ戻す)
ゲートタイミング中身
① Hooks編集直後・ローカル即時静的解析(lint・型)+関連テスト
② LLM as judge生成物ができた時点ルーブリック採点、E2EをLLMで確認(別プロセスに分離)
③ CI/CDPR時静的解析+全テスト+build

重いチェックはループの内側に入れない

ここに設計判断が1つあります。数秒で終わる型チェックは毎ループ回す価値がありますが、数分かかるビルドを各エージェントに自由に叩かせると渋滞します。

対処は、ビルドを1本のプロセスに直列化することです。エージェントはパッチを書くだけ、まとめてビルドして結果を返す。最も高い操作を並列化しないのが要点です。


ブランチ戦略を決め切らずに進む:v2方式

既存チームとブランチ戦略(GitFlowかトランクベースか、リリースブランチをどう切るか)を合意するのは、それ自体が調整コストです。しかも決まるまで着手できない。これも変数のひとつなので、減らします。

答えは、ブランチではなくコード上のパスで新旧を分けることです。

① 現状            /orders(v1)
② 並走で新画面     /orders(v1) + /orders-v2(新)
                   ※API呼び出し層は v1 と共有する
③ ルーティング切替  /orders → v2 へ転送
④ 旧画面を削除     /orders(v2)
   ↺ 画面単位で繰り返す

得られるものが5つあります。

運用ルールは3つ。

  1. 共通モジュール(API呼び出し層など)はv1と共有する。 コピーすると二重メンテになります
  2. 「旧画面の削除」までを1チケットの完了条件にする。 期限を切らないとv2が永久に残り、そのまま負債になります
  3. v1とv2を同時に修正しなければならない期間を短くする。 だから画面単位に小さく割ります

ブランチ戦略と排他ではありません。後でチーム全体の方針が決まったら、そこに乗せ替えれば済みます。決まっていないことを理由に止まらないための型です。


環境は月ごとに積み上げる

現行の本番・検証・開発環境は触りません。AI駆動開発用の系統を別に立て、月が進むごとに「テスト済みの状態」を1つずつ増やします。

時期構成目的
1ヶ月目現行系(本番/stg/dev)は維持 + 新系 devフロントのみ
2ヶ月目+ サンドボックス環境バックエンド変更を隔離して試す
3ヶ月目〜+ 新系 stg(現行stgのコピー+マイグレーションを都度実施)実ユーザーによる一次検証

目的は、各時点で「テストが完了している状態」を維持することです。リリース直前にマイグレーションをまとめて確認する、という状況を避けます。


最後に:コードを直すな、ループを直せ

大規模移行の事例から得られた一文が、この運用全体の背骨です。

コードを直すな。そのコードを産んだループを直せ。

よくある反応ループを直す反応
出力が惜しいので手で直すルールに1文足して再生成する
レビューで15件指摘して直させる15件を分類し、頻出パターンをルール化してから再生成する
うまくいかないので自分で書くコンテキスト・ルール・審判のどれが欠けていたかを特定して直す
失敗ログを1件ずつ潰す根本原因でグルーピングし、カテゴリ単位で潰す

判断基準は1つです。

この修正は、次に同じことが起きるのを防ぐか?

防がないなら、それは人間が発生させ続ける負債です。あわせて、運用上効く実務ルールを3つ挙げておきます。


よくある質問

Q. 承認ゲートが2つでは少なくないですか? A. 多いほど安全に見えますが、承認が増えるとエージェントの待ち時間が増え、結局人間がボトルネックになります。要件(何を作るか)と期待挙動(どうなったら完成か)の2点が固まっていれば、実装過程の判断は機械的な審判に任せられます。

Q. PRDを毎回書くのは重すぎます。 A. チケットの性質で省略してください。表示崩れの修正にPRDは不要です。判断に迷う場合は「状態遷移に影響するか」で切ると実務的です。

Q. Hooksでは何を実行すべきですか? A. 秒単位で終わるものだけです。lint、型チェック、変更ファイルに関連する単体テスト。フルテストやビルドを入れると編集ごとに待たされ、かえって遅くなります。

Q. v2方式でコードが重複しませんか? A. 一時的に重複します。だから旧画面の削除までを1チケットの完了条件にします。共通モジュールを共有し、コピーするのは画面層だけに限定すれば、重複期間の負担は小さく収まります。

Q. AIの生成物をレビューする時間が結局かかります。 A. レビュー対象が「コード1行ずつ」になっている可能性があります。見るべきはループの出力分布(どのカテゴリの指摘が何回出たか)で、個別の指摘は審判とルールに落として自動化する対象です。同じ指摘を2回したら、それはルールに書くべき合図です。

関連サービス

LINE登録で Claude Code 特典キットを受け取る

スライド自動作成キット・スターターキットを無料プレゼント。友だち登録するだけで受け取れます。

最終確認日: 2026-07-26

関連記事

実践ガイド

Mockを「審判」にする──テスト資産がない既存プロダクトでAI駆動開発を回す方法

AI駆動開発の終了条件は「審判」です。テストが無い既存プロダクトで審判をどう作るか、正解の出所(現行実装・制度・Mock・主観)で場合分けして解説します。審判の検証方法まで含めた実践手順です。

実践ガイド

Mock駆動開発のススメ──AIに実装させる前に、Mockで「正解」を固定する

AIコーディングで最初に壊れるのは実装力ではなく受け入れ基準です。Mockを「絵」ではなく「審判」として使うMock駆動開発の考え方と、既存プロダクトへの入れ方を、実案件の型にもとづいて解説します。

実践ガイド

AIに読ませるドキュメント体系──L0〜L6と「正本ルール」

AIの出力がぶれる原因はモデルではなくコンテキストの不備です。AI駆動開発で整えるべきドキュメントをL0〜L6の7階層に整理し、最初に決めるべき「正本ルール」と、縦に1本通す進め方を解説します。

実践ガイド

既存リポジトリでAI駆動開発を始める順序──まず「変数を減らす」

既存プロダクトへのAI駆動開発の導入で最初に失敗するのは、同時に変えるものが多すぎることです。変数を減らす/分離するという原則と、Phase 0(コンテキスト抽出)・Phase 0.5(構造整理)の実務を解説します。